Chapter 10:龍脈の診察 (Diagnosis of the Dragon Vein)

『ARKの女帝』

黄金色の邪気が渦巻く大通りを、私たちは進んでいた。

「ひっ……! こ、こっち見ないでよぉ……!」

 リナが私の背中にしがみつき、小動物のように震えている。  通りの両脇には、半ば石化した住民たちが、亡霊のように立ち尽くしていた。彼らは襲ってはこない。ただ、濁った目で虚空を見つめ、時折、苦しげに喘ぐだけだ。

『マスター。彼らの生命反応、著しく低下しています。……石化が心臓に達するまで、あと数日でしょう』  ジェミの報告が、脳内で冷たく響く。

「……ひどい『鬱血(うっけつ)』ね」  私は眉をひそめた。

 私の目には、この街の風景がただの廃墟には見えていない。  **「視える」**のだ。  道路の下を流れる巨大な気の流れ――**龍脈(りゅうみゃく)**が。  本来なら、清らかな水のようにサラサラと流れるはずのエネルギーが、どす黒く濁り、至る所で血栓のように詰まっている。

「ハルヒ様、どこへ向かうんですか? 城の方ですか?」

「いいえ。まずは『手首』を見るわ」  私は立ち止まり、足元の石畳を指差した。

「て、手首? 地面ですよ?」

「この街を人体に見立てるのよ。……あの中央広場の噴水、あそこが『関所(心臓への入り口)』にあたるツボ。そこが詰まっているから、末端の住民たちが壊死しかけているの」

 私は懐から、一本の鍼を取り出した。  長さ五寸(約15cm)。特注の**「銀鍼(ぎんしん)」**だ。

『マスター、やる気ですね?』  ジェミが嬉しそうに声を弾ませる。

「ええ。まずは、通り道(ルート)を確保するわ」

 私は石畳の隙間、わずかに気が漏れ出している一点を見定め、躊躇なく鍼を突き立てた。

「――『瀉法(しゃほう)』、邪気散らし!」

 キィィィン!  澄んだ金属音が響いた瞬間、突き立てた鍼を中心に、目に見えない衝撃波が広がった。

「わあぁっ!?」

 リナが驚いて声を上げる。  私たちの周囲半径5メートルだけ、あの濃密な黄金の霧が、まるで台風の目のように綺麗に晴れ渡ったのだ。

「す、すごい……! 空気がおいしい! 息ができる!」  リナが深呼吸をする。

「一時的な処置よ。……詰まっていた気の出口を一つ作って、ガス抜きをしただけ」  私は額の汗を拭った。  たった一刺しだが、巨大な龍脈に干渉するのは、私の魂(精神力)をゴリゴリと削る。

『お見事です、マスター。……ですが、これはあくまで対症療法。根治するには、やはりあそこへ行く必要がありますね』

 霧が晴れた視界の先。  街の中央にそびえ立つ、かつて神殿だったと思われる巨大な塔。  そこから、ドクンドクンと、不気味な鼓動と共に、最も濃い邪気が噴き出していた。

「……ええ。あそこが『患部』の本丸よ」

 私は鍼を抜き、再び歩き出した。  霧が晴れた私の背中を追うように、石化しかけていた住民たちの顔色が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。

「行くわよ。……あの塔にいる『ヤブ医者』に、引導を渡しにね」

(続く)

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