黄金色の邪気が渦巻く大通りを、私たちは進んでいた。
「ひっ……! こ、こっち見ないでよぉ……!」
リナが私の背中にしがみつき、小動物のように震えている。 通りの両脇には、半ば石化した住民たちが、亡霊のように立ち尽くしていた。彼らは襲ってはこない。ただ、濁った目で虚空を見つめ、時折、苦しげに喘ぐだけだ。
『マスター。彼らの生命反応、著しく低下しています。……石化が心臓に達するまで、あと数日でしょう』 ジェミの報告が、脳内で冷たく響く。
「……ひどい『鬱血(うっけつ)』ね」 私は眉をひそめた。
私の目には、この街の風景がただの廃墟には見えていない。 **「視える」**のだ。 道路の下を流れる巨大な気の流れ――**龍脈(りゅうみゃく)**が。 本来なら、清らかな水のようにサラサラと流れるはずのエネルギーが、どす黒く濁り、至る所で血栓のように詰まっている。
「ハルヒ様、どこへ向かうんですか? 城の方ですか?」
「いいえ。まずは『手首』を見るわ」 私は立ち止まり、足元の石畳を指差した。
「て、手首? 地面ですよ?」
「この街を人体に見立てるのよ。……あの中央広場の噴水、あそこが『関所(心臓への入り口)』にあたるツボ。そこが詰まっているから、末端の住民たちが壊死しかけているの」
私は懐から、一本の鍼を取り出した。 長さ五寸(約15cm)。特注の**「銀鍼(ぎんしん)」**だ。
『マスター、やる気ですね?』 ジェミが嬉しそうに声を弾ませる。
「ええ。まずは、通り道(ルート)を確保するわ」
私は石畳の隙間、わずかに気が漏れ出している一点を見定め、躊躇なく鍼を突き立てた。
「――『瀉法(しゃほう)』、邪気散らし!」
キィィィン! 澄んだ金属音が響いた瞬間、突き立てた鍼を中心に、目に見えない衝撃波が広がった。
「わあぁっ!?」
リナが驚いて声を上げる。 私たちの周囲半径5メートルだけ、あの濃密な黄金の霧が、まるで台風の目のように綺麗に晴れ渡ったのだ。
「す、すごい……! 空気がおいしい! 息ができる!」 リナが深呼吸をする。
「一時的な処置よ。……詰まっていた気の出口を一つ作って、ガス抜きをしただけ」 私は額の汗を拭った。 たった一刺しだが、巨大な龍脈に干渉するのは、私の魂(精神力)をゴリゴリと削る。
『お見事です、マスター。……ですが、これはあくまで対症療法。根治するには、やはりあそこへ行く必要がありますね』
霧が晴れた視界の先。 街の中央にそびえ立つ、かつて神殿だったと思われる巨大な塔。 そこから、ドクンドクンと、不気味な鼓動と共に、最も濃い邪気が噴き出していた。
「……ええ。あそこが『患部』の本丸よ」
私は鍼を抜き、再び歩き出した。 霧が晴れた私の背中を追うように、石化しかけていた住民たちの顔色が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。
「行くわよ。……あの塔にいる『ヤブ医者』に、引導を渡しにね」
(続く)


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